第52話 番外編 織田信長が足利義昭に出した異見十七箇条の中身を見てみよう!

ガラシャ

前回、京都で事件が起こるって言っていましたが、何が起きるんですか?

憲三郎先生

織田信長から足利義昭に「異見十七箇条」が発行されました。

ガラシャ

異見十七箇条・・・ってなんですか?

憲三郎先生

足利義昭への意見を十七個綴った書状です。

ガラシャ

なんか前にも似たようなことがあったような・・・。

ガラシャ

あのときは5つのルールでしたよね?今回は違うのですか?

憲三郎先生

今回は、直接足利義昭へ当てた、まさしく意見書です。

ガラシャ

でも、それで事件というには少し大袈裟ではないですか?

憲三郎先生

この「異見十七箇条」を受け取った足利義昭は、織田信長へ反旗を翻します。

ガラシャ

・・・すみません、大事件でした。

憲三郎先生

織田信長としても事件になる前に歩み寄って和睦を申し入れたのですが、合意には至らなかったようです。

ガラシャ

ついこの間「京都に屋敷作ろう」と言っていた足利義昭が反旗を翻すなんて、どんなことが書いてあったんですか?

憲三郎先生

では、ひとつずつ内容をなるべく簡単に説明していきましょう。

ガラシャ

はい。

憲三郎先生

1、先代の足利義輝は宮中に参内することを怠けていたので、神仏の加護が得られず、不幸な最後でした。なので、将軍は宮中参内をしっかり務めてくださいと申し上げていましたのに、すっかり怠けているようですね。誠に遺憾です。

ガラシャ

・・・足利義昭は、怠けていらっしゃるのですね。

憲三郎先生

1、諸国へ御内書をお出しになり、馬などを献上させているようですね。外聞が良くありませんので考え直してください。必要であれば私(織田信長)に申しつけてくだされば手配します。そのようなお約束でしたよね。私に内緒で遠国へ御内書を出し御用を言いつけるのはお約束と違います。

ガラシャ

・・・御内書ということは私的なお手紙ですか、それでは織田信長も「天下の儀」の面目がたちませんね。

憲三郎先生

1、幕府の出身で良く働き忠節を尽くしている人々に相応の領土を与えず、新参者で身分のそぐわない者に米や金銭を加給しておられます。忠義が無くても加給が受けれるとあっては人々の評判も良くありません。

ガラシャ

・・・頑張る者が馬鹿を見る、なんというブラック企業。

憲三郎先生

1、近頃、将軍と織田信長の関係が悪化したと風評があるようです。将軍家の重宝類をよそへお移しになったことは誰もが知っています。このことで京都では騒ぎになっていて私は驚いています。苦労して将軍御所を作りましたのに、今度はどこへ居を移られるおつもりですか?そのようなことをなされば、私の苦労も無駄になってしまいます。

ガラシャ

・・・え、すでに足利義昭から反旗の気配がひしひしとしていますけれど!?

憲三郎先生

1、賀茂神社の所領を一部没収してこれを石成友通に与え、表向きには賀茂神社の経費を石成に負担するように厳しく申しつけ、実際にはほどほどで良いと指示されたようですね。このように寺社領を没収するのは良くありません。石成についてはうまく計らい、その分働かせようと思っていたのに、内密にこんな取り計らいをされるのは良くないことです。

ガラシャ

・・・賀茂神社が圧倒的に被害者です。そして織田信長もしたたかです。

憲三郎先生

1、私(織田信長)に友好的な者は下位の役職の者にまで不当な扱いをされるようで、彼らは迷惑しております。目をかけてくださるならありがたいものを、逆とはどのような理由があるのでしょうか。

ガラシャ

・・・天下の儀を仰せつかっているはずなのに・・・織田信長がとても嫌われています。

憲三郎先生

1、奉公衆の中で何の落ち度もないのに米や金銭の加給がない者から、生活に困っていると訴えが上がっています。余りに過酷な処置だと申し上げたのに、誰一人改善されないのでは私の面目も立ちません。観世国広、古田可兵衛、上野豪為のことです。

ガラシャ

・・・彼らはきっと織田信長に友好的だったんですね・・・。

憲三郎先生

1、若狭の国安賀庄の代官の行跡について、栗屋孫八郎が訴訟申し立てをした件について決裁が未だにされていません。

ガラシャ

・・・忘れてしまったのか、わざとやっていないのか。

憲三郎先生

これでやっと8個です。

ガラシャ

これだけ聞くと、織田信長はとてもまっとうな事を言っているような気もしますが・・・信長の言い分には少し耳が痛いですね。

憲三郎先生

では残りの9個を見ていきましょう。

ガラシャ

なんだか怖くなってきました。

憲三郎先生

1、小泉が女房の実家に預けておいた身の回りの品、質屋に預けておいた刀や脇差まで没収されたそうです。小泉は悪事を働いたわけではなく偶発的な喧嘩で死んだのですから、法規どおりに処置なされるのが正しいのです。没収までなさるのは将軍の欲得ずくだと世間では思うでしょう。

ガラシャ

・・・欲得ずくとは欲得に基づいて物事をすること。なるほど。

憲三郎先生

1、元亀の年号は不吉なので改元した方が良いと、世間一般の意見に基づいて申し上げました。宮中からも催促があったそうですが、改元の費用を献上されないため延引しております。天下のためですから、怠るのは良くないと思います。

ガラシャ

・・・たしかに怠るのは良くないですね。

憲三郎先生

1、烏丸光康を懲戒された件ですが、息子の光宣についてはお怒りは当然ですが、光康は赦免なさるよう申し上げました。ところが使者を遣わして、金銭を受け取る事で出仕をお許しになったとのこと。最近の公家は彼のようなのが普通なのですから、このようなさり方はよろしくないことです。

ガラシャ

・・・烏丸光宣が何をしたのか、気になりますね。

憲三郎先生

1、諸国から金銀を献上されていることは明らかなのに、宮中の御用にも役立てないのは何のためなのですか。

ガラシャ

・・・宮中の御用の、先程出てきた改元費用も宮中の御用のひとつですね。

憲三郎先生

1、明智光秀が京の町で地子銭を徴収し、買い物の代金として預けおいたところ、徴収した土地は延暦寺領だといって差し押さえになったのは不当です。

ガラシャ

あ!曾我助乗経由で納めた銭二十一貫二百文!
差し押さえられていたんですね。

憲三郎先生

1、昨年の夏(元亀2年の夏)、幕府の備蓄米を売却したそうですね。将軍が商売をするなど前代未聞です。このご時世、兵糧米の備蓄がある状態こそ、世間への聞こえが良いのです。このようななさり方には驚いてしまいます。

ガラシャ

・・・。

憲三郎先生

1、寝所にお寄せになった若衆に金銭を支給されようとお思いなら、その場でやりようがあります。要職に任命したり、理不尽に肩入れしたりするのは、世間から批判されても仕方ありません。

ガラシャ

・・・そうですね・・・。

憲三郎先生

1、幕府に仕える武将達は武具や兵糧ではなく金銀を蓄えているそうです。浪人になったときの準備と思われますが、これは将軍が金銀を蓄えいざとなったら御所を出ようとなさっているように見受けられるからです。「上に立つ者は自らの行動を慎む」という教えは守れないわけではありません。

ガラシャ

・・・足利義昭の思惑はバレバレのようです。

憲三郎先生

1、将軍が何ごとにつけても強欲なので道理も外聞もかまわないのだと世間で言われています。農民さえも将軍を悪御所と呼んでいるようです。六代将軍足利義教をそのように呼んだと聞いたことがありますが、それはとても格別なことです。なぜそのように呼ばれてしまうか、今こそ良くお考えになった方が良いと思います。

ガラシャ

・・・うわぁ。ずばり言いましたね。

憲三郎先生

その結果、織田信長が各方面に攻められて八方塞がりだと聞いて反旗を翻す気になったようです。

ガラシャ

また波乱の幕開けですね・・・。

”大事件の発端となる意見書の中身は
ちょっとびっくりする内容でした。”