第63話 織田信長が蘭奢待をいただきました。

ガラシャ

今回はどんなお話しですか?

憲三郎先生

「蘭奢待」というものをいただきに行くお話しです。

ガラシャ

らんじゃたい?

憲三郎先生

それでは、日付順に見ていきましょう。

ガラシャ

はい!

憲三郎先生

天正2年3月9日に柴田勝家が多聞山城番替でやってきます。

ガラシャ

柴田勝家もやってくるのですね。交代でしょうか?

憲三郎先生

史料では交代については書かれていません。いつ頃まで光秀が多聞山城にいたかというのはもう少し史料の解析が必要そうです。

ガラシャ

なるほど。

憲三郎先生

3月12日に織田信長は上洛の為、岐阜城を出発します。佐和山城に2、3日滞在した後、3月16日に永原に宿泊します。

ガラシャ

永原って、どの辺りですか?

憲三郎先生

今の滋賀県野州市の辺りです。そして翌日3月17日に織田信長は琵琶湖を渡り坂本へ入り、上洛しました。

ガラシャ

今回は何のための上洛なのですか?

憲三郎先生

織田信長は「蘭奢待」を所望する旨を正親町天皇へ奏聞するために来ました。この日は相国寺に宿泊しました。

ガラシャ

奏聞とは天皇・上皇に申し上げること。なるほど、上奏や奏上と同じですね。

憲三郎先生

ちなみにこの日に、柴田勝家が十市遠長を同行して上洛しています。

ガラシャ

織田信長の上洛と関係ありますか?

憲三郎先生

この後一緒に多聞山城に行くので、おそらくここで落ち合ったのではないかと思われます。

ガラシャ

わざわざ天皇にお願いする「蘭奢待」っていったい何者ですか?

憲三郎先生

蘭奢待というのは、香木です。

ガラシャ

なにか特別な部隊かなにかだと思っていました・・・。香木って普通の木とは違うのですか?

憲三郎先生

香木とは心地よい芳香を持つ木材のことです。熱して香る沈香と常温で香る白檀が有名です。蘭奢待は伽羅なので沈香のなかでも最高級品です。

ガラシャ

どうして天皇にお願いしたのですか?

憲三郎先生

天皇から許可をもらえた者しか切り取ることが出来なかったようです。

ガラシャ

切り取る?大きい物なのですか?

憲三郎先生

当時1.8メートルの箱に収まるほどの大きさで、現在も重さ11.6Kgくらいあるそうです。

ガラシャ

11Kgというと2歳のこどもぐらいの重さですね!もっと小さい物を想像していました。天皇が持っているのですか?

憲三郎先生

東大寺正倉院に収蔵されていて、天下第一の名香と謳われているそうです。ちなみに、正倉院宝物目録での名は黄熟香(おうじゅくこう)で、「蘭奢待」という名は、その文字の中に”東・大・寺”の名を隠した雅称だそうです。

ガラシャ

漢字の一部にたしかにあります!雅称・・・雅な呼び名なのですね。

憲三郎先生

3月21日に塙直政が、多聞山城に在番します。

ガラシャ

なんだか、続々と集まってきますね。

憲三郎先生

3月26日に日野輝資・飛鳥井雅教が、勅使として綸旨を奈良の東大寺に伝達します。

ガラシャ

綸旨って天皇からの指令書ですよね、許可もらえたのですね。

ガラシャ

楽しみですね。

憲三郎先生

そして、翌日3月28日に塙直政・菅屋長頼・佐久間信盛・柴田勝家・丹羽長秀・蜂屋頼隆・荒木村重・武井夕庵・松井有閑・織田信澄が特使として東大寺に向かいました。

ガラシャ

ずいぶん大所帯で・・・それだけ貴重だと言うことですね。

憲三郎先生

東大寺の蔵が開き「蘭奢待」は多聞山城に運ばれました。織田方の史料では一寸八分切り取ったとされています。

ガラシャ

一寸って一寸法師の一寸ですか?

憲三郎先生

一寸は長さの単位で、一寸が約3cmくらいです。

ガラシャ

一寸八分だと5cmくらいでしょうか?

憲三郎先生

東大寺の記録によれば、織田信長は一寸四方を2個切り取ったとされているようです。

ガラシャ

もうひとつはどうしたのですか?

憲三郎先生

一つは正親町天皇に献上したという説もあるようです。

ガラシャ

それはとても喜ばれそうですね。「蘭奢待」は他には誰がもらっていたのですか?

憲三郎先生

寛正6年(1465年)に足利義政が切り取って以来、将軍への許可は出なかったようです。他には土岐頼武が許可されたと言われています。

ガラシャ

土岐頼武って光秀最初の主君の土岐頼純のお父さんですよね。

憲三郎先生

その通りです。

ガラシャ

土岐頼武はすごい人だったのですね。・・・あれ?光秀はどこに居たのですか?

憲三郎先生

史料には名前が出てきませんでしたが、おそらく多聞山城に織田信長と居たのではないかと思われます。

ガラシャ

多聞山城の城番の塙直政が特使に行って、城番不在の多聞山城に織田信長がいるのも確かに不思議ですね。

憲三郎先生

もしかしたら、到着した「蘭奢待」を見て土岐頼武を思い出していたかも知れませんね。

ガラシャ

・・・感慨深いですね。

”蘭奢待は香木でした。そして土岐頼武はすごい人でした。”