第４２話　番外編　連絡係の光秀と兼見卿記

史料には具体的に日にちは記されていません。ですが、元亀元年９月２６日に帰陣とあるので少なくとも９月２７日以降だと思われます。

この後の光秀の様子を見ると、京都のことだと思われます。

１２月１３日に和睦がなり両軍が撤退することになので、１２月１２日頃まででしょうね。

前回も少し出てきましたが、勝軍山城に駐在していました。

史料には詳しくは載っていません。しかしその時の様子をうかがえる史料がありますよ。

光秀はこの頃から、吉田家との往来が始っていました。

吉田家は、吉田神社の神官で信長接待役の朝廷役人でもある家です。吉田家の子息の兼見は細川藤孝とは従兄弟なんです。

光秀と吉田家の濃密な関係は兼見の日記『兼見卿記』で知ることができます。

元亀元年１１月２１日に、兼見の父・兼右は勝軍山城に織田信長を訪問し、その後に光秀の陣所に宿泊しています。また、１１月１３日と２３日には、光秀が兼見邸を訪れて石風呂を所望しています。

勝軍山城にずっと詰めていたというわけではなかったようです。

石風呂とは石を焼いて水を注ぎ、その湯気を浴びるもので、現代のサウナ風呂のようなものです。

そうですね。そのほかにも光秀と吉田家の関係がわかる史料があります。

元亀２年１月６日には、兼見邸を光秀の使者四名が訪問し、１月２１日に宇佐山城に移っていた光秀を兼右が見舞に近江志賀へ赴き宿泊し、２月１９日には光秀からの依頼で兼見が人足２５人を派遣しています。

宇佐山城の修復のためだと思われます。

元亀元年１１月に始まった光秀と吉田家の深い交流は、この後も光秀の死に至るまで続きますが、この関係の深さは兼見が細川藤孝の従兄弟という理由だけではないように思われます。

そうですね。兼右と光秀は同い年ですしそれに近い関係だったのかもしれません。

兼見の日記『兼見卿記』は元亀元年六月から現存していて、それ以前の交流の記録は残っていません。父の兼右の日記もわずかな期間分しか現存していません。

そうです。もし兼右・兼見の日記が欠けることなく現存していたら、間違いなく光秀に関する重要な記事が発見されると思います。

実は本能寺の変のあった天正十年の『兼見卿記』には、正本と別本があるんです。

どちらも兼見が書いたものです。

正本は、天正１０年の正月から年末まで、別本には、天正１０年の正月から６月１２日までの記録があります。

そうです。兼見は６月１３日には、光秀が敗れたことを聞いて、６月１４日には、織田信孝の使者と称する津田越前入道が「光秀が禁裏・五山へ配った銀子が怪しいので詳しい事情を聴きたい」と兼見邸を訪れています。

そこで、兼見は津田の再訪・家宅捜査という事態に備えて『兼見卿記』を書き換えたのかもしれません。

別本が先に書かれたものです。

そうです。別本に書かれていた光秀とのやり取りの記録に、見られたくない不都合があったので、慌てて書き直したのかもしれません。

なんでしょう

日付を見るとそうですね。「この日に、たまたま紙がなくなった」との説もありますが、よりによって「この日にたまたま紙がなくなった」というのは、ちょっと不自然ですね。

史料が足りないので断言はできませんが、欠けた日記や、もっと他の史料が出てきたら裏付けがとれるのかもしれませんね。
光秀が敗れる話は随分と先ですが、また、その時くわしく説明しましょう。